030524 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

Hobby the world?

Hobby the world?

目覚め

騎士団の練習が休みだから、街のほうに来てみたら、人が打ち上げられていた。

年の頃は僕とそう変わらないかもしれない。

でも、その人は、違和感がある。

その姿には不釣り合いな大きな傷が沢山ある。

出血は止まっているようだけど、血を流しすぎたのか、顔色が青い。

この場合はやっぱり、助けるべきなのだろうか?

少し、思案しかねる。

もし、自殺志願者だったとしたら、逆ギレされるのが落ちだろうし…

だからといって、ほうっておくのも…

「どうしたんだい?」

「あ、スノウ」

僕が考え込んでいると、スノウが声をかけてきた。

スノウは、僕の幼なじみで、僕が今住んでいるラズリルの領主の一人息子だ。

「あのさ、この人どうしたらいいと思う?」

僕は、この人こと、倒れている人を指して言った。

「け、怪我人!?
 何やっているのさ、早く助けないと!!」
やっぱり、助けた方がいいのかな?

「……これ……殺さ……な…」

倒れていた人が声を発した。

でも、目は閉じられたままだ。

「え?」

「…」

「譫言(うわごと)?」

「さあ?それよりも、何処かに運んだ方がいいんじゃないかな?
 怪我、酷いみたいだし」

「…そうだね」

仕方なく、僕とスノウは、その人を騎士団の僕の部屋へと運ぶことになった。

に、しても、この人、案外軽い?

でも、骨だけじゃなく、程よく筋肉がついている?

何だか、アンバランスだ。

腰に帯びているのは剣だよね?

でも、形が少し変わっている。

この辺じゃ見かけない形だ。

何処か、遠くから流されてきたのだろうか?

それに、何故、こんな大けがを?

普通なら、こんな傷は付かないはずなのに。

まるで、モンスターにでもやられたような傷だ。

まあ、詳しくは、本人に聞けば解ることなのだろうけど。

とにかく、今は、この人を部屋に運んで治療するのが専決かな?









目が覚めたら、見慣れぬ天井が視界に入った。

そもそも、ここは何処だ?

何故、ここに居る?

俺は何者なのだ?

「あ、目、覚めた?」

「…」

隣(?)から、声が聞こえてきた。

少年の声のようだ。

と、いうことは、ここは少年の家なのだろうか?

「言葉、わかるよね?」

「…ッ」

声が出せない。

声を出そうとするとのどが酷く痛む。

「どうしたの?」

「(声を出せない)」

俺は、仕方なく口パクで言った。

「もしかして、声、出ないの?」

「…(こくん)」

「…とりあえず、水でも飲む?」

「…」

この少年は何故、俺に優しくする?

見ず知らずのはずの俺を?

ただのお人好しなのか?

それとも、ただの馬鹿なのか?

それとも、何か、企んでいるのか?

いや、今は、そんなことを考えている場合じゃないか。

今は、この現状を打破しなくては…

……だが、打破するとは、いってもどうする?

今の俺には、記憶は無いようだ。

そうすると、これからの生活に支障が出る。

自分の名も生まれた地も何処から来たのかも

今は、しばらく、この少年の世話になった方がいいのだろうか?

いや、それだと、迷惑がかかる。

だからと言って、街(?)に出るわけにもいかない。

一般常識は覚えているようだから、大丈夫だろうが、衣食住は、確保できそうにない。

だからと言って、この少年に頼るのは、何故か、癪(しゃく)だ。

何故かは、わからない。

まるで、この少年には、そのうち、何か、つらい思いをさせなければいけない、そんな風に感じる。

だが、何故そう感じる?

声からして、まだ、あどけない年頃のようだというのに?

それとも、この少年は、実際には、真の紋章を宿している、不老の宿主なのか?

ちょっと、待て。

何で、俺が真の紋章の性質を知っている?

わからない。何もかも

自分とは、まるで関係ない情報ばかりが残っている。

何故、そんなものだけ残っている?

今の俺に必要なのは、自分に関する記憶だというのに?

それとも、俺には、元から記憶が無いのだろうか?

いや、それなら、一般常識すら無いはずだ。

なら、何故、俺は記憶を失った?

普通、記憶喪失には、そうそうなるわけではない。

これは、誰だって知っていることだ。

だが、現に俺は記憶喪失になっている。

今は、記憶が戻るまで、どうにかして、衣食住の確保をしないといけない。

「(ここは、お前の家なのか?)」

「?……ここは、ラズリルにあるガイエン騎士団の騎士寮だよ」

「(ラズリル?ガイエン騎士団?)」

「知らないの?」

「(……記憶がないんだよ
 僕が何者なのか
 何処から来たのか)」

「君は、記憶喪失なの?」

「(多分ね)」

とにかく、今は、この少年からできるだけ、情報を聞きだそう。

今の俺には、情報が無さ過ぎる。

「君も騎士団に入るかい?」

「(はぁ?)」

ちょっと、待て、声が出ないのにどうやって騎士としてやれと!?

「あ、声が出ないんだっけ?
 のどが乾いているせいなんじゃないのかな?」

「(…なるほど、そうかもしれない)」

「はい、水
 起きあがれるよね?」

「(あ、ああ)」

そうだな、とにかく、体を起こすか、そうすれば、少年の顔もよく見えるだろうし。

起き上がってみて、改めて少年の姿を確認するとやはり、声質と同じく、まだ、あどけない少年、そのものだ。

「…(ありがとう)」

俺が少し、頭を下げる動作をした。

すると

「どういたしまして」

そう言って、少年は、人懐っこい笑顔を見せた。

この少年は、本当にただの人懐っこい少年でしかないようだ。

これなら、警戒する必要は、なさそうだ。

ついでに、水ももらった。

「………(ふぅ)」

水を飲み干すと一息ついた。

「まだ、声、出なさそう?」

「…少しなら…」

やっぱり、何かがおかしい。

普通なら、声が出てもいいはずなのに。

普通の大きさで口を動かしているのに、小さな声しか出ない。

「…何か辛いことがあったの?」

「…わからない」

何か、すごく、不自由な気がする。

でも、仕方が無い。

暫くは、我慢していよう。


© Rakuten Group, Inc.